起業や結婚など、人生の大きな節目において「縁起の良い日」を選びたくなるのは、ごく自然な感情です。大切な何かを始める瞬間に良い日取りを選ぶことで、その行動そのものが祝福され、後押しされるように感じられるからかもしれません。
占星術においても、「良いタイミング」を選ぶための技術が存在します。それがエレクショナル占星術(Electional Astrology)と呼ばれるものです。
何かを始めた瞬間のホロスコープは、その出来事の“出生図”として機能します。エレクショナル占星術では、始まりの瞬間を意図的に選ぶことによって、その出生図をできる限り良好なものに整えることを目的とします。
私自身、クライアントの方から結婚式の日取りや起業のタイミングについてご相談を受けることがありますが、日常生活においてもエレクショナル占星術をよく活用しています。
私の実感としては、良いタイミングで始めた物事は、驚くほどスムーズに進みやすく、時には思いがけない幸運が後押ししてくれるように感じることも少なくありません。
エレクショナル占星術って、どんな時に使うの?
エレクショナル占星術は、人生の節目から日常のちょっとした出来事まで、さまざまな場面で活用できます。
たとえば:
- 大きなプロジェクトを始めるとき
- 旅行に出発するタイミング
- 恋人との初デートや特別な約束
- 新しいビジネスを立ち上げるとき
- 高額な買い物や契約
- 結婚式や引っ越しの日時
- 商談や面談、交渉のタイミング
- 大切な会話やメールを送るとき など
「なるべくスムーズに進んでほしい」「幸運に後押しされたい」と思うような出来事には、エレクショナル占星術が力を発揮してくれます。
本記事では、エレクショナル占星術の基本的な考え方とその活用方法について紹介していきます。
シグニフィケーターの強化
占星術では、すべての出来事やテーマには、それを象徴する天体が対応しています。
ホラリー占星術やエレクショナル占星術など、古典的な技法においては、こうした象徴天体のことを「シグニフィケーター(表示体)」と呼ぶのが一般的です。
エレクショナル占星術において最も重要なポイントの一つは、始まりの瞬間のホロスコープにおいて、対象となるシグニフィケーターをできるだけ強化することです。
これにより、その物事がスムーズに進みやすくなり、思わぬ幸運や支援が得られる可能性も高まります。
以下は、各天体が象徴するテーマや活動の一例です:
- 太陽:起業(特に、自分の人生の目標に即した事業)、リーダーシップを発揮する場面、ステージに上がるとき、自分に注目を集めたいとき
- 月:種まきや育成、家族のイベント、住環境に関する行動(料理・模様替えなど)、癒しや安心を得る行動
- 水星:執筆(本や記事など)、重要なメッセージや契約、プレゼンテーション、交渉や説得
- 金星:結婚式、デート、パーティなどの社交イベント、美や芸術、愛に関する活動
- 火星:競争や闘争、新しい運動習慣の開始、手術、自分を守る行動、勇気を必要とする挑戦
- 木星:事業の拡大、哲学的・宗教的な学び、高等教育(大学院など)、海外旅行、法的な手続き
- 土星:長期的な戦略やビジネスの開始、自己管理・忍耐を要する行動、縮小や整理、高齢者との関わり、境界線の確立
- 天王星:革新やテクノロジーに関する行動、飛行、科学・プログラミングの学習、新しいデジタル機器の導入
- 海王星:映画・写真・絵画などの創作活動、瞑想やスピリチュアルな体験
- 冥王星:深い心理的変容を伴う行動、カウンセリング・ヒーリング・コーチング、真実と向き合う場面
古典占星術では火星や土星は「凶星」とされることが多いですが、現代的な感覚では、むしろこれらの天体が重要なシグニフィケーターとなる場面も多々あります。
たとえば、ダイエットを始める場合には、根気や自己管理、意思の強さが必要となるため、土星の強化が効果的かもしれません。同様に、勇気を出して挑戦するような行動には、火星を強化することが支えになってくれるでしょう。
シグニフィケーターを強化する方法は?
シグニフィケーターとなる天体がわかったら、次はその天体がもっとも強くなるタイミングを選ぶことが基本になります。
ここで言う「強くなる」とは、サイン・ハウス・アスペクトといった要素において、古典的に良い配置(好配置)にあることを意味します。
▶ 例:結婚の日取りを選ぶとき
結婚のタイミングを選ぶ場合は、金星(愛・人間関係の星)をなるべく強化します。 理想的なのは、たとえば木星とのトライン(120°)やセクスタイル(60°)のアスペクトを形成している日。
木星は楽観性や寛大さを象徴する天体なので、金星が木星からサポートされることで、おおらかで愛情豊かな関係性を築けることが期待されます。
▶ 土星との好アスペクトも悪くない
ただし、サポートする天体が必ずしも「吉星(木星・金星)」である必要はありません。
たとえば土星(秩序・忍耐・構造)が金星と調和的なアスペクトを取っている場合(トラインやセクスタイル)、関係性はやや硬質で落ち着いた印象になるかもしれませんが、誠実さや、困難をともに乗り越える力を象徴する、頼もしい配置となり得ます。
▶ サイン(星座)における強さ
シグニフィケーターが位置するサインも、天体の強さに影響します。
できるだけその天体がディグニティ(品位)を持つ配置にあると理想的です。
品位についての詳細はまた別の機会に譲りますが、
基本的には以下のようなサインが「強い」とされます:
- ドミサイル(本拠地):その天体が支配しているサイン 例:金星 → 牡牛座、天秤座
- エグザルテーション(高揚):その天体がもっとも高く評価されるサイン 例:金星 → 魚座
▶ ハウスでの配置
天体が位置するハウス(室)も、その力の強さに関係します。一般的には、アンギュラーハウス(1・4・7・10室)にある天体がもっとも力強く作用するとされ、次いでサクシデントハウス(2・5・8・11室)、最後にカデントハウス(3・6・9・12室)の順に力が弱まると考えられています。
月の配置を見る
月が次のサインに移る前の最後のアスペクト
月の配置は、ホラリー占星術やエレクショナル占星術において もっとも重視されるポイントのひとつです。 それは、月の動きが 物事の進展プロセスを象徴する と考えられているためです。
特に注目されるのが、月が現在のサインを離れる前に形成する最後のメジャーアスペクト(0・60・90・120・180度)。 これは、その事柄が 最終的にどのように完結・着地するか を示すものと解釈されます。

例えば、この図は私が今この記事を書いている時点のチャートです。
月は3ハウス(執筆)にあり、アセンダントには水星(コミュニケーション)を支配星とする乙女座が位置しています。
現状をしっかり反映しているチャートであることがわかります。
月の配置は 蠍座26度。
乙女座27度にある火星とセクスタイル(60度)に接近中のアスペクトを形成しつつあります。
(※ 接近中のアスペクトは「未来に起こること」を、分離中のアスペクトは「近い過去に起こったこと」を象徴するとされています。)
3ハウスの月が乙女座の火星とセクスタイルを形成しているということで、
知性が活発化し、書くためのモチベーションが強まっている状態を表しています。
この火星とのセクスタイルが、月が蠍座を去る前に形成する最後のメジャーアスペクトとなります。 最後のアスペクトが調和のアスペクト(60度)であるため、 熱意に支えられながら、記事がスムーズに書き上げられそうですね。
このように、月がサインを去る前の最後のアスペクトは非常に重要で、
サポートを与えるアスペクト(コンジャンクション・セクスタイル・トライン)であることが望ましいとされています。
最後のアスペクトを形成する天体の性質によって、完結の仕方の「雰囲気」も異なってきます:
- 土星への調和のアスペクトなら → 秩序だった、長続きする結果を
- 火星への調和のアスペクトなら → エネルギッシュで活発な結末を
逆に、緊張を伴うアスペクト(スクエア・オポジション)が最後に来る場合は、
その物事の「着地」に困難がつきまとう可能性があるとされます。
ボイド・オブ・コースの月
月がそのサインにおける最後のメジャーアスペクトを形成した後は、
「ボイド・オブ・コース」(略して「ボイドの月」とも呼ばれます)という状態になります。
例:上の図で例に挙げたチャートでは、
月が乙女座27度の火星とセクスタイルを形成した後、
天秤座に移るまでの数時間が「ボイド・オブ・コース」の状態となります。
古典的なエレクショナル占星術では、
月がボイド・オブ・コースの間に物事を始めるのは望ましくないとされています。
なぜならこの時間帯に始めたことは、
- 「進展しない」
- 「何も起こらない」
- 「結果に結びつかない」
と考えられているからです。
特に、
- 交渉事
- 契約・申し込み
- 重要な会話やプレゼン
など、具体的な結果を求める行為を始める場合は、
月が次のサインに移るまで待つ方が良いとされています。
ただし、すべての行動が「結果」や「進展」を必要とするわけではありません。
実際、とある占星家はこう語っていました:
「私は確定申告の提出をボイドの月の時に行う。
だって申告の後に何も起こって欲しくないから!」
たとえば:
- 運動する
- ジャーナルを書く
- 芸術的・創造的な表現をする
- 一人でじっくり取り組む内的作業
これらのように、結果よりも行うことそのものに意義がある行動は、ボイドの月でも特に問題はないと考えられます。むしろ、何の期待もなく「ただ行う」ことに集中するには、月が外部との接点を持たないこの時間帯が、心地よく作用することさえありそうです
ここで大切なのは、ボイドの月だからといって必ず何かが失敗するわけではないということです。ですので、「ボイドの月=絶対にNG」と構えすぎる必要はありません。
あくまで参考材料の一つとして、柔軟に活用していきましょう。
アセンダントの支配星を強化する
ホラリー占星術では、アセンダントの支配星が「相談者本人(Querent)」を表すとされています。エレクショナル占星術でも、同じ考え方を採用します。
この場合、アセンダントの支配星は「行動を起こす人」を象徴しているので、自分でエレクショナル占星術を使う場合には、それが自分自身の象徴となります。
そのため、アセンダントの支配星をできるだけ良い状態にすることが基本的なセオリーとなります。
理想的には、シグニフィケーターとなる天体が支配するサインをアセンダントに持ってくるのが望ましいです。たとえば、結婚式のタイミングなら、金星の支配する牡牛座や天秤座をアセンダントに設定するという形です。
ただし、これは現実的には難しいこともあります。
たとえば、結婚式のチャートで金星支配のサインをアセンダントにしようとすると、その時間帯が深夜になってしまうこともあるでしょう。
また、交渉ごとや対立が関わるチャートでは、アセンダントの支配星が「自分」、ディセンダント(7ハウスのカスプ)の支配星が「相手」を表すとされます。
このような場合には、両者の天体が接近中のアスペクトを形成しているかどうかがポイントになります。お互いが近づいていれば、歩み寄りや合意の可能性が高いと考えられるからです。
(※「接近中」とは、たとえば60度のアスペクトであれば、現在の角度が59度から60度に近づいている状態を指します。反対に、60→61度のように正確な角度を過ぎた後の状態は「分離中」となります。)
現実的には、アセンダントとディセンダントの支配星を理想的な配置にするのは難しいことも少なくありません。そうした場合でも、最初の2点(シグニフィケーターの強化と月の配置)がしっかりしていれば、十分に「良いタイミング」と言えるでしょう。
エレクショナル占星術には、他にも多くのルールや判断基準がありますが、流派によってはそれらが互いに矛盾することもあります。いずれにしても「完璧なチャート」を作るのは現実的ではないため、「なるべく良い条件を揃える」という柔軟な姿勢をもって選択することが、成功の可能性を高めてくれるはずです。
補足:タイミング以上に大切なこと
エレクショナル占星術の基本的な手順と考え方をここまで紹介してきました。各流派にはより複雑で細かい技術的ルールが存在しますが、私はまず「基本的な土台をしっかりと押さえること」を重視しています。
ここからは、それらの基礎に加えて、エレクショナル占星術を活用する際に考慮すべき重要な補足事項について触れておきます。
トランジットやソーラーアークなど
エレクショナル占星術によって「良い始まりのタイミング」を選ぶことは確かに有意義ですが、実際の現実には、それ以前にトランジットやソーラーアークといった“時期そのものが持つ力”のほうが強く作用することがよくあります。
たとえば、現在のトランジットが抑圧的で内省的なテーマを持っているとしましょう。そうした時期に「恋愛運が良さそうなタイミング」を選んでデートに出かけたとしても、心の状態がついてこないことがあります。たとえチャート的にタイミングが良さそうに見えても、実際には「自分にとってそうした活動に向かない季節」であれば、その効果は限定的なものになってしまうのです。
同じことは、起業や引っ越しなど、大きな決断にも言えます。こうしたプロジェクトを始める際には、まず自分のトランジットやソーラーアークがそれを支える時期かどうかを確認するのが先決です。つまり、「そもそも今は、始める時期なのか?」という問いに答えることが第一段階となります。
そしてそのうえで、タイミングを少しでも整えたいときに、エレクショナル占星術は非常に役に立ちます。
準備が整い、時期も合っている――そんな流れの中で、最適な一歩を踏み出すタイミングを選ぶサポートツールとして、この技法は最大限に力を発揮するのです。
常識的な要素
エレクショナル占星術を学ぶ際に陥りやすいのが、「悪いタイミングで行動したくない」という気持ちが強くなりすぎて、行動そのものを控えてしまうことです。しかし、行動しないこと自体が機会を逃すことに繋がり、結果的に不利益となることも多いのです。
というのも、行動を通して得られる経験や成長こそが、人生において最も価値あるものだからです。ある意味で、「成長と成功には失敗がつきもの」と捉えることもできるでしょう。
もう一つ覚えておきたいのは、技術・経験・準備こそが結果を確実にする力を持っているということです。完璧なチャートがなくても、成功できる場面は無数にあります。たとえば世界的なアスリートやミュージシャン、アーティストたちは、それぞれの分野を極めており、たとえ困難なトランジットの下でも素晴らしい結果を出し続けています。トランジットが、彼らの積み上げてきた努力や準備を打ち消すことはできません。
良いエレクショナル・チャートは、自分ではコントロールできない要因に働きかけ、予期しない支援や後押しを得られる可能性を高めてくれます。しかし、多くの行動において成功の土台となるのは、あなた自身の経験と意志であることがほとんどです。
望む結果に向けて、地道に努力しながらも、エレクショナル占星術を「プラスαの幸運を味方につけるためのツール」として活用する。私はこのくらいの距離感で付き合っていくのが、最も現実的で、かつ効果的な使い方だと考えています。