リロケーション占星術(場所の占星術):新しい土地で出会う自分

もくじ

    私たちは「どこに住むか」によって、日常の体験や人との関わり方に変化が生まれます。
    この変化を占星術の観点から読み解く技法が「場所の占星術(リロケーション占星術)」です。

    海外では引っ越しや移住が一般的で、生まれ育った土地から遠く離れて暮らす人が多くいます。日本ではそこまで大きな移動は少ないかもしれませんが、それでも関西から関東へ、九州から東京へなど、大きな地域をまたいでの移動は「新しい自分」と出会うきっかけになり得ます。

    リロケーションとは、文字通り「別の場所へ移ること」。そして占星術では「リロケーション・チャート」と呼ばれる特別なホロスコープを作成します。これは新しい土地に住むことでどんな体験や変化がもたらされるのかを示す地図であり、その土地との特別な縁を映し出す鏡のようなものです。

    リロケーション・チャートの作成方法

    リロケーション・チャートを作成する方法はとてもシンプルです。
    生まれた時刻はそのままに、「出生地」を「引っ越し先」に変えてチャートを作ります。

    このとき注意したいのは、天体の位置そのものは出生図とまったく同じであるということです。変わるのはアセンダントやMCといったアングルで(軸)あり、これがその土地ならではの体験の違いを示すポイントになります。

    また、タイムゾーンの異なる国へ移動する場合は、同じ瞬間が現地では別の時刻になります。たとえば東京で午後2時に生まれた人は、同じ瞬間、アメリカでは真夜中過ぎにあたります。

    とはいえ、ほとんどの占星術ソフトにはリロケーション機能が備わっており、自動で変換してくれるので安心です。

    作成時に確認しておきたいチェックポイント:

    • 天体の位置は出生図と完全に同じであること
    • 特に「月の度数と分数」が一致しているかどうか

    これを押さえておけば、正確なリロケーション・チャートを作成できます。

    リロケーション占星術の実例:アーノルド・シュワルツェネッガー

    ボディビルダーとして世界一を目指し、やがてハリウッド俳優、そして政治家へとキャリアを広げたアーノルド・シュワルツェネッガー。彼はヨーロッパのオーストリア、グラーツ近郊の小さな町で生まれました。

    アーノルド・シュワルツェネッガーの出生図

    (アーノルド・シュワルツェネッガー氏の出生図)

    子どもの頃から「世界一のボディビルダー、そして映画スターになる」という夢を描いていた彼は、若くしてボディビル大会で頭角を現し、ついにチャンスを掴んでロサンゼルスへと渡ります。

    この移住が、彼の人生を大きく転換させることになりました。

    シュワルツェネッガー氏のリロケーション・チャート(ロサンゼルス)

    (シュワルツェネッガー氏のリロケーション・チャート:カリフォルニア州ロサンゼルス)

    ロサンゼルスでのリロケーション・チャートを見ると、成功と発展を象徴する木星がMC(天頂)に重なっており、彼の社会的な評価とチャンスが拡大する暗示が見て取れます。

    さらに人気や魅力を表す金星がDSC(対人軸)に乗っており、彼が人々から愛されるスターとなる象徴的な配置です。

    このように、リロケーション占星術では「場所を変えることでチャートの焦点が変わる」ことがあり、その土地で新たな可能性が開かれることを示しています。

    もちろん、彼自身の努力と行動あってこその成功ですが、リロケーション・チャートが示す「その土地との相性の良さ」も、見逃せない要素と言えるでしょう。

    自分のリロケーション・チャートを読む

    シュワルツェネッガー氏の例が示すように、リロケーション・チャートでは天体がアングル(ASC・DSC・MC・ICのいずれか)に重なると、その場所においてその天体の象徴するテーマが活性化します。

    以下では、各天体がアングルに乗る場合の意味を見ていきましょう。

    太陽がアングルに乗る場合:自己表現と存在感の強調

    太陽がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所は、「自分らしさ」をより強く打ち出せる土地です。ASCやDSCに太陽が乗る場合は、人間関係の中で自然に人目を惹きつけたり、リーダーシップを発揮しやすくなります。一方、MCやICに太陽が乗る場合は、仕事や地域社会の中で存在感を示しやすくなるでしょう。

    もう一つの可能性として、この場所が「自分らしさを見つける」きっかけをくれることもあります。ここでの経験を通して、「自分らしくない」行動パターンを手放し、より自然な形で自己表現できるようになるかもしれません。

    月がアングルに乗る場合:心の安らぎと感情のつながり

    月がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、心の安らぎや感情的なつながりへの欲求が強調されます。月のサインによってその表れ方は異なりますが、安心感や家族的な絆、心地よい日常のリズムといったテーマが中心になるでしょう。

    この土地では、自分の本心や感情に自然と意識が向きやすくなります。ときに感情が揺れ動きやすくなるかもしれませんが、それも「心の声を聴く機会」として働きます。また、月は母性や優しさを象徴するため、人に対する思いやりや共感をより素直に表現できる場所となることもあるでしょう。

    水星がアングルに乗る場合:コミュニケーションの活性化

    水星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、思考の働きが活性化し、知識の吸収や言葉での表現が自然と促されます。新しい学びを得たり、人とアイデアを交換したりする機会が増えるでしょう。同時に、学んだことを人に伝える・教えるといった「知の循環」も起こりやすくなります。

    私の恩師であるノエル・ティル先生は、数十年をアリゾナ州で過ごしました。そこは、彼のリロケーション・チャートで水星がMCに重なる場所でした。その土地で彼は数多くの著書を執筆し、占星術マスターコースを通して世界中の生徒たちとつながっていました。まさに、水星のテーマである「学び」「伝える」「つながる」が、その土地の力によって強く引き出された好例と言えるでしょう。

    金星がアングルに乗る場合:関係性と魅力の再発見

    金星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、人間関係が活性化し、自分本来の魅力や美的感性を発揮しやすくなります。シュワルツェネッガー氏の例でも見たように、金星の強調は周囲からの「人気」や「好感」として現れることがあります。

    しかし同時に、出生図の金星が示す関係性のテーマが浮き彫りになりやすく、「繰り返されるパターン」と向き合う機会をもたらすこともあるでしょう。

    もうひとつ興味深いのは、金星が活性化する土地に実際に住まなくても、その場所と縁のある人──たとえばその地の出身者──と深い関わりを持つ場合があることです。このように、土地とのつながりが人とのつながりとして表現されることもあるのがリロケーション占星術の奥深いところです。

    火星がアングルに乗る場合:行動力と自己主張の活性化

    火星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、目標に向けて行動する意欲やモチベーションが高まり、積極的な姿勢が自然に引き出されます。この土地では、仕事での活力やリーダーシップ、そして自分の意見をしっかり主張する力が強調されるでしょう。

    ただし、火星は怒りや競争の象徴でもあります。この場所では、自分の内側に抑えてきた怒りが表に出やすくなったり、人との衝突として現れることもあるかもしれません。

    けれども、そのような体験を通じて「怒りをどう健全に表現するか」「どう建設的に自己主張するか」を学ぶことができます。その意味で、火星がアングルに乗る土地は、行動力と意志の成熟を促す場所とも言えるでしょう。

    木星がアングルに乗る場合:成長と拡張のチャンス

    木星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、大きな成長や拡張のチャンスが自然に訪れやすくなります。シュワルツェネッガー氏の例に見られるような、キャリアや社会的成功だけでなく、自分にとって大切な学びや精神的成長の機会も、この土地で得やすくなるでしょう。

    さらに、この土地に直接住まなくても、その地に縁のある人とのつながりを通じて、同じような成長のチャンスがもたらされることがあります。私自身の例では、フロリダで会社員として働いていたとき、非常にお世話になった社長がベネズエラ出身でした。

    私のベネズエラのリロケーション・チャートでは、木星がMCにぴったり重なっています。この方に引き立てていただくだけでなく、ビジネスについて多くのことを学び、その経験が今の自分の力になっていることを実感しています。

    土星がアングルに乗る場合:責任と成熟の学び

    土星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、人間的な成熟や責任のテーマが強調されます。この土地で新たな役割や責任を任されることで、成長を経験することがあるでしょう。また、自分の弱点や課題が明らかになり、それを克服するために努力する──これも土星らしい働きです。

    私自身の例では、長年住んでいたフロリダのリロケーション・チャートで土星がASCに乗っています。この土地では、占星術や太極拳など、目標に向けて集中して努力することを学びました。その経験を通して、土星が象徴する「努力と成熟」の恩恵を強く受けたと感じています。

    天王星がアングルに乗る場合:個性化と予期しない発展

    天王星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、思いがけない発展や成長のチャンスが現れやすくなります。天王星の象徴する「個性化」とは、自分独自の方向性や才能の発見を意味し、「独立」や「自由な選択」が起こりやすい土地だと言えるでしょう。

    実例として、アメリカ人のクライアントで、ウクライナのリロケーション・チャートで天王星がMCに乗っている方がいました。彼女は、アメリカでハイキング中に偶然出会ったウクライナ人の男性と恋に落ち、ウクライナでビジネスを行うために移住します。
    しかし、その後まもなくロシアによるウクライナ侵攻が起こり、再びアメリカへ戻ることになりました。

    予期せぬ出会いから始まった展開は、まさに天王星が象徴する「予測できない変化」の連続だったと言えるでしょう。

    海王星がアングルに乗る場合:直感と創造性の活性化

    海王星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、クリエイティブな活動に必要な直感や感性が活性化されます。この土地では感受性や共感力が高まり、音楽や芸術作品の創造だけでなく、自分や他者の心をより深く理解する力が育まれることもあるでしょう。

    一方で、海王星が強調された土地に住む人の中には、孤独や現実からの距離を感じるという声もあります。

    しかし、インスピレーションを得るためには「静かな時間」や「独りの空間」も大切な要素です。その意味で、創作や内省のために一定期間こうした土地に滞在することは、「場所の占星術」を活かす一つの方法と言えるでしょう。

    冥王星がアングルに乗る場合:「力」と「変容」に関わる体験

    冥王星がリロケーション・チャートのアングルに乗る場所では、人生観が深く変化するような体験や、より大きな影響力を持つ機会がもたらされるかもしれません。冥王星は「エンパワーメント(内的な力の覚醒)」を象徴し、この土地では自分本来の力を引き出すための試練や再生のプロセスが起こりやすくなります。

    シュワルツェネッガー氏のロサンゼルスでのリロケーション・チャートでは、冥王星がMCにスクエアを形成しています。彼がハリウッドでの成功にとどまらず、カリフォルニア州知事として政治的な影響力を持つに至ったのは、まさに冥王星の象徴する「力の発揮」と「変容」の体現だと言えるでしょう。

    また、冥王星には心理的な変容という意味もあり、心理占星術とも深く関わります。
    以前アメリカでリロケーション占星術について講義を行った際に、複数の心理占星家たちが「今、冥王星がアングルにある土地に住んでいる」と語っていたのを覚えています。

    私の恩師ノエル・ティル先生も、アリゾナ州でのリロケーション・チャートで冥王星がICに重なっており、日々心理カウンセリングに取り組んでいたことを思うと、それもまた冥王星的な生き方の一例だと感じます。

    まとめ:リロケーション占星術の活用

    ここまで、各天体がリロケーション・チャートのアングルに乗る地点で、どのようなテーマが活性化するのかを見てきました。今回ご紹介したのはその一端にすぎず、実際には出生図の配置や全体の文脈を踏まえて、さらに立体的な分析を行うことで、その土地とのつながりをより深く理解することができます。

    遠い場所に移動したからといって、出生図の影響が失われるわけではありません。むしろ、出生図の内包する可能性が、リロケーションによって新たに芽吹いていく——そんな体験をチャートの中に見て取れるのが、この技法の魅力です。

    もしあなたが、生まれた場所から離れた土地に暮らしていたり、これから海外に移る予定があるなら、ぜひ一度リロケーション・チャートを作ってみてください。その場所でどんなエネルギーが開かれていくのか、きっと新たな発見があるはずです。気づいたことや感じた変化があれば、ぜひコメント欄でシェアしていただけると嬉しいです。

    新里ひろき
    新里ひろき

    アメリカ・フロリダ州在住の心理占星家。西洋占星術界の重鎮ノエル・ティルに師事。氏の難解で有名なマスターズ占星術認証コースを最優秀の成績で卒業。日本と英語圏の両方で個人セッションとノエルティル流心理占星術の講師として活動中。

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